いわた産業イノベーション事業

 ふるさと財団では、自治体が既存手法の延長では対応困難な地域課題や社会課題に対し、公民共創でサービスやプロダクトなどを開発・実証・事業化する仕組み及び一連の取り組みを地域イノベーション連携(Local Innovation Partnership:LIP)と定義し、自治体の取り組みを支援しております。

 この地域イノベーション連携についてモデルとなる市町村によるケーススタディを行い、成果を全国に発信するとともに、地方創生に資するよう活力と魅力ある地域づくりを目指しています。今回は、令和7年度に行った「モデル事業」の成果概要をご紹介します。

INTRODUCTION

CASE

静岡県磐田市
人口 :163,757人(令和8年3月末現在) 面積 : 163.45㎢

 磐田市は、輸送機器関連企業などが集積する「ものづくり都市」であり、温暖な気候を生かした農業や、Jリーグに参戦している「ジュビロ磐田」をはじめとしたプロスポーツの本拠地など、多面的に地域資源を有しています。
一方で、製造業では製造品出荷額がピーク時の約6割まで減少し、農業では後継者不足が深刻化するなど、中長期的な課が顕在化しています。

 こうした背景のもと、磐田市では令和4年度より「いわた首都圏連携コーディネート事業」を通じて外部の企業や人材を呼び込む取り組みを進めてきました。その成果や民間企業同士の取り組みもあり、スタートアップによる新産業創出の芽が生まれましたが、市内企業と外部人材・企業の接点は限定的でした。そこで本事業では、市内企業と先端技術を持つ市外スタートアップなどとの協業による実証、社会実装を段階的に進めるとともに、市内で進むイノベーション関連の取り組みを統合し、発信することで、「磐田市=イノベーションが生まれるまち」としての魅力を高め、地域産業に新たな価値を生み出すことを目指しました。

本事業のねらい

地域企業へヒアリングを行い、協業のテーマを設定

 産業イノベーションマネージャーに委嘱した岡本氏と市職員が連携し、市内の企業を合同訪問しました。ヒアリングを通じて、競争力維持や新技術の導入、新製品・新市場への展開に対する関心が高いこと、とりわけ「省人化・自動化」や「新製品・新市場への展開」が共通課題として浮かび上がりました。これを踏まえ、本事業では重点テーマの一つとして「陸・水中のAMR(自律移動ロボット)技術による地域課題解決」を位置づけました。

市内企業とスタートアップの接点形成・具体的な協業案件の創出

 ヒアリングで把握した技術課題や事業拡張ニーズに対応する形で、有望なスタートアップや研究者との対話を重ね、実質的なマッチングへとつなげました。マッチングは12件にのぼり、複数案件がすでに実証・協業フェーズへ進んでいます。ロボット分野のスタートアップと市内製造業との連携をはじめ、農業や水産業などでも協業の動きが生まれており、磐田市ならではの産業基盤を生かした連携モデルとして期待されています。

協業を支える活動基盤の構築

 本事業では、産業イノベーションマネージャーを市内に配置し、市職員とともにヒアリング、面談調整、イベント運営などを一貫して担う体制を整えました。さらに、磐田駅前エリアの「SOMIC N1 lab Iwata」と市役所周辺エリアの「システムフリージア コミュニティスペース」の2か所を活動拠点として整備し、企業・スタートアップ・行政が日常的に打ち合わせや交流を行える環境を構築しました。専用Web サイト「Iwata Innovation Stadium―いわスタ―」の整備も、今後の協業誘発や人材誘致につながる基盤となっています。

SOMIC N1 lab Iwata(磐田駅前エリア)

協業への機運醸成

 令和7年12月に開催したオープニングイベントには、市内外の企業、支援機関、行政関係者など約80人が参加しました。事業概要の説明に加え、地域中小企業やスタートアップによる事例発表、地域を代表する市内企業を交えたトークセッション、交流会を通じて、磐田市におけるイノベーションの可能性を共有しました。イベント後の懇親会では参加者同士のやり取りも始まり、地域内外のプレイヤーがつながる起点となりました。

オープニングイベント集合写真

事業を通じて浮かび上がった課題

 本事業を通じて、市内企業とスタートアップの協業を進めるための基盤は整いつつありますが、継続的な展開に向けては幾つかの課題も明らかになりました。まず、マッチングが成立しても、PoC※(概念実証)に進むまでには、秘密保持契約の締結や費用負担の整理、実証内容の設計など、多くの調整が必要であり、企業の負担が大きいことが分かりました。

 また、スタートアップが市内に拠点を構え、人材を配置しながら事業を継続していくためには、制度面・資金面を含めた受け入れ環境の充実が欠かせません。さらに、事業そのものも現状では公的資源への依存が大きく、持続性や再現性を高める運営体制の構築が求められています。

※ PoC(概念実証):Proof of Conceptの略称。新しい技術、製品、アイデア等が理論通りに実際に機能するか、実現可能かを検証する試作開発前段階のプロセス。

今後の展望

 今後は、PoCに必要な経費支援や専門家による法務・技術面の伴走支援を進めるとともに、産業イノベーションマネージャーを中心とした継続的な支援体制を強化し、実証から事業化までを見据えた取り組みを後押ししていきます。

 また、市内2か所の活動拠点や実証フィールドを活用し、スタートアップが磐田市を事業展開の拠点として活用しやすい環境づくりを進めます。あわせて、金融機関、大学、支援機関などとの連携を深め、資金・人材・情報が地域内で循環する支援ネットワークを整備していきます。さらに、民間資金の活用や成果を可視化する評価指標の検討を進め、持続可能な事業運営の基盤を整備していきます。

イノベーションマネージャー

ReGACY Innovation Group 株式会社
マネージャー 岡本 英樹 氏

 磐田市は、もともと行政が丁寧に市内企業の声をくみ取る仕組みが構築されていました。ここに市外企業の技術や、市外の産業政策の流れを取り込むことで、新たな産業振興の芽を産み出すことが本事業の目的です。一般的に地域の共創促進事業は、事業の目標が曖昧になってしまって、事業の成果が機運醸成に留まってしまいがちです。

 そのため、本事業では、事業の目的を「新産業のクラスター構築を通じた市内の産業振興」と位置づけ、それに応じたテーマ設定をしています。また市の計画に位置付けていくことに加え、国や県の産業政策とも連携することで、目標達成の実現性を高めています。

自治体担当者

磐田市経済産業部産業政策課
副主任 和田 裕氏

 本モデル事業を通じて大きく三つの成果を得ることができました。①事業の活動を支える拠点の創出②市内外の関係者が集まる場の創出③挑戦することに賛同してくれる皆様との繋がりです。イノベーションは、単独では起こらず、必ず複数のプレイヤーが必要です。本事業も岡本氏をはじめとする多くの方々との繋がりによって形になりました。

 このような繋がりを大切に、本取り組みを通して企業価値が向上し、雇用が生まれ、関係人口を創出することで魅力ある人材が集まり、魅力ある街づくりに繋がる、という好循環を目指し、挑戦する企業の後押しと本取り組みが持できるよう、変化に素早く対応し、行政も共に挑戦を続けていきます。

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