共創イノベーションタウン奥出雲「企業版関係人口創出・連携事業」

 ふるさと財団では、自治体が既存手法の延長では対応困難な地域課題や社会課題に対し、公民共創でサービスやプロダクトなどを開発・実証・事業化する仕組み及び一連の取り組みを地域イノベーション連携(Local Innovation Partnership:LIP)と定義し、自治体の取り組みを支援しております。

 この地域イノベーション連携についてモデルとなる市町村によるケーススタディを行い、成果を全国に発信するとともに、地方創生に資するよう活力と魅力ある地域づくりを目指しています。今回は、令和7年度に行った「モデル事業」の成果概要をご紹介します。

INTRODUCTION

CASE

島根県奥出雲町
人口 :10,613人(令和8年4月1日現在) 面積 : 368.01㎢

 中国山地に囲まれた、自然豊かな奥出雲町は、世界で唯一たたら製鉄の炎が燃え続け、日本刀の材料となる玉たまはがね鋼を生産している町で、「たたら製鉄を再適用した奥出雲地域の持続可能な水管理及び農林畜産システム」が令和7年8月に中国地方で初めて世界農業遺産に認定されるとともに、全国的な強豪校として知られる横田高校のホッケーをはじめとした多彩な地域資源を有しています。

 一方で、少子高齢化や若年層の減少、農業の担い手不足、公共交通や買物環境の利便性の低下といった課題も抱えています。今回の事業では、こうした地域課題を行政と企業が持続的に連携して解決していく仕組みづくりに取り組んでいます。庁内の官民連携プロジェクト会議で課題を可視化し、公募・採択した企業とともに実証事業を行い、奥出雲町らしい公民共創の形を探りました。

官民連携プロジェクト会議を起点に4つの実証へ

 令和7年度は、官民連携プロジェクト会議で整理したテーマの中から、「移住後のサポートプログラム」「婚活イベント」「有機農業・スマート農業」「行政DX・地域DX 」などの視点をもとに企業を公募しました。事前相談を必須とした上で審査を行い、新たに2社(令和6年度からの継続分と合わせて4社)を採択し、採択された事業者と町が協働・共創のパートナーとして、現状把握や地域資源の掘り起こし、対話を重ねながら実証内容を具体化しました。

実証①スポーツ合宿の受け入れ体制を検証

 株式会社ランブリッジとは、地域資源を活かしたスポーツ合宿の誘致に取り組みました。早稲田大学女子ホッケー部をモニターとして2泊3日の合宿を実施し、横田高校女子ホッケー部や島根県成年女子とのトレーニングマッチ、オリンピアンによる指導などを体験していただきました。監督・コーチ・選手へのヒアリングやアンケートを通じて、競技環境、宿泊、食事、移動面の強みと改善点を把握し、次年度以降の受け入れ体制の構築、本格誘致に向けた基礎データを得ることができました。

実証②仕事体験をきっかけに移住就労を促進

 ディップ株式会社とは、都市部の求職者が多く利用する求人サイト「バイトル」に奥出雲町の特設ページを設け、町内2社の求人情報を掲載しました。町内企業での「しごと体験」を入口に、仕事だけでなく町の魅力も知っていただき、就労を通じた移住機会の創出を目指した取り組みです。問い合わせは14件ありましたが、実際の体験参加には結びつかず、情報接触から現地体験へつなぐ導線設計や、参加に伴う心理的・物理的なハードルへの対応が課題として見えてきました。

実証③婚活支援で若者の一歩を後押し

 株式会社オミカレとは、婚活を始めたいが方法がわからない住民向けに「恋愛力アップデートセミナー」を開催しました。

 当日は14人が参加し、参加者の約9割が「参加して良かった」と回答しました。参加者からは、マッチングアプリへの理解が深まったことや、自ら行動することの大切さを実感したという声が寄せられ、出会いに対する不安や固定観念の解消、行動変容のきっかけづくりに一定の効果が確認できました。

 あわせて、地域の婚活イベント主催者や行政職員向けの働きかけも行い、継続的な結婚支援活動につながる基盤づくりを進めました。

実証④有機農業の未来を語り、新規就農につなげる

 株式会社坂ノ途中とは、有機農業を切り口とした新規就農者誘致と伴走支援に取り組みました。既存農家へのヒアングに加え、町内農家や地域住民を対象とした「農業を未来につなげる座談会」を開催し、30人が参加しました。

 対話の場では、「子どもたちに奥出雲の良い環境を残していきたい」「女性の力をもっと活かしたい」など、未来につながる前向きな意見が多く出され、有機農業や減農薬栽培への関心の広がりと、新規就農者の受け入れや伴走支援の必要性が共有されました。

継続企業との関係構築も前進

 採択した4社のうち2社は継続企業であり、町の施策や総合計画を踏まえた対話を重ねることで、単年度で完結しな中長期的な関係づくりが進みました。実証を通じて、企業側にも地域理解が深まり、町にとっても外部企業と協働する際の進め方や論点が整理されつつあります。

庁内にも生まれた意識の変化

 官民連携プロジェクト会議は、令和5年度から継続して実施しており、令和7年度も各課係長級以上の職員が参加しました。®レゴシリアスプレイ®※などの手法を活用して既存事業を棚し・可視化したことで、公民共創は仕事を増やすものではなく、業務の効率化や価値向上につながるという認識が庁内で広がりました。

※ⓇレゴシリアスプレイⓇ:「 普段行っている仕事」や、「仕事の理想的な状態」をブロックで表現し、グループ内で発表するワーク。

事業を通して見えてきた課題

 事前相談を必須とした公募方式は、事業趣旨への理解を深める上で有効でしたが、潜在的な関心企業を広く掘り起こすという点では十分とは言えませんでした。また、スポーツ合宿は基礎データを得ることができた一方で、婚活援、有機農業の各取り組みは、初年度として課題把握や仮説検証の色合いが強く、今後は成果指標を明確にしながら事化に向けた検証を進めていく必要があります。さらに、実証後の位置づけについても、「事業化」「継続」「完了」の判基準や、奥出雲町内で自走できる体制づくりを整理していくことが求められます。

今後の展望

 奥出雲町では、今後「共創イノベーションタウン奥出雲」の構築を掲げ、公民共創を担う人材の育成と取り組みの内製化を進めていきます。令和8年度も引き続き、本モデル事業を活用しながら、町職員、地元企業、地域団体を対象にした内製化プログラムを通じて、学ぶ・実践する・定着させるという3段階で、公民共創を奥出雲町内で自立的に開できる体制を整えていく考えです。

 あわせて、実証事業については1企業あたり最大3年間を基本に、KPIや波及効果、費用対効果などを踏まえながら方向付けを行い、得られた知見を次の政策形成や新たなテーマ設定へつなげていきます。実証で得た学びを蓄積し、地域に根差した持続可能な公民共創の仕組みとして発展させていくことが、奥出雲町の次の目標です。

イノベーションマネージャー

株式会社IRODORI
代表取締役
谷津 孝啓 氏

 公民共創は、企業との連携そのものが目的ではなく、最終的には奥出雲町の中で継続して動かしていける仕組みにしていくことが大切です。

 今回の取り組みを通じて、地域課題の見つめ方や進め方を庁内で学び合う土台ができてきました。これからは、奥出雲町内での内製化をさらに進めていきたいと考えています。

自治体担当者

奥出雲町役場 奥出雲創生課
課長代理 安部 宏明 氏

 本事業は、地域課題を企業と協働して解決していくことを目的として取り組んでいます。

 官民連携プロジェクト会議において課題の可視化を図るとともに、公募・採択した企業と継続的に対話を重ねながら、実証事業を進めてきました。対話を通じて相互理解を深めることで、地域の強みや課題がより明確となり、企業の知見を活かした新たな解決の方向性が見えてきています。

 令和8年度は内製化を進める重要な局面であり、引き続き企業と向き合いながら、持続可能な課題解決の仕組みづくりを推進していきます。

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