
CONTRIBUTOR
一般社団法人
筆甫地区振興連絡協議会
事務局長
吉澤 武志(よしざわ たけし)氏
1 「面白い村」を自らの手で -逆境から始まった住民自治
宮城県最南端の丸森町筆甫地区。かつては3,000人近くが暮らした山あいの地は、現在、人口391人、高齢化率64%を超える深刻な少子高齢化の渦中にあります。地区内の小中学校はすでに閉校し、東日本大震災と原発事故は基幹産業や移住の流れに深刻な打撃を与えました。
平成22年4月、町は公民館を「まちづくりセンター」へ改変し、その管理運営を住民自治組織(協議会)に指定管理で委託する仕組みへ移行しました。同時に役場の出張所も廃止され、地域運営の重責が住民にのしかかりましたが、住民の受け止め方は前向きでした。「地域が悪くなるのを待つくらいなら、自分たちで面白いことを始めて、もう一回筆甫村を作ろう」という活気に満ちていました。
2 対話から紡ぎだした暮らしの課題
しかし、この歩みを進めようとした矢先、地域を襲ったのが震災と原発事故でした。福島県と接する筆甫地区は放射線対策という未知の課題に直面し、日々の線量調査や除染活動など、住民の命を守る活動に数年間奔走せざるを得ませんでした。
地域の元気が失われる中、私たちは「住民の暮らしを支えることこそ組織の本来の姿だ」と考え、住民アンケートやワークショップを実施し、浮き彫りになった課題に対し、具体的なアクションを起こしていきました。深刻な獣害には地域ぐるみのイノシシ対策を講じ、高齢者の草刈りを有償で支援する住民相互扶助の仕組み「お助け隊」を結成。さらに、空白地有償運送制度を活用した移動支援もスタートさせました。


3 「豆腐一つ買えない」を解決する、商店とガソリンスタンドの奇跡
住民の声から生まれた最大の挑戦が、生活インフラの自主経営です。ある会議で「今の筆甫は豆腐一つすらまともに買えない」との声がありました。今後ますます買物弱者が増える状況は避けられません。そこで私たちは一般社団法人を取得し、平成30年に「ひっぽのお店ふでいち」をオープンしました。移動販売や弁当配達も組み合わせ、高齢者の暮らしを支えています。
ふでいちの開設とほぼ同時に、さらなる難題が浮上しました。地域で唯一のガソリンスタンドが閉鎖を決定したのです。山間地において移動や農作業の燃料、冬場の灯油は生命線です。事業承継をしてくれる民間企業も探しましたがそれも叶わず、最終的に私たちは「自分たちで引き受ける」という決断を下し運営を継承することとなりました。職員自らが危険物取扱者の資格を取得して店頭に立っています。
現在、スタッフは総勢11名。自主事業を拡大させることで11名分の雇用を生み出しました。



4 岐路に立つ持続可能性 -経済の縮小を「外に売る」戦略で突破する
インフラを守り抜いてきた私たちですが、その継続は簡単ではありません。最大の障壁は、想定を超えるスピードで進む人口減少です。ふでいちと給油所を開設した平成30年時点で600数十名いた人口は、わずか数年で400人を割り込みました。人口減による売上縮小の中、
自主財源だけで事業を維持していくことは、非常に困難な状況にあります。
しかし、「店やスタンドがあるから、今もここで安心して暮らせる人がいる」という事実もあります。地区内だけで経営が立ち行かないのなら、「地域の暮らしを守るために、外からお金を稼ぐ」という攻
めの経営戦略へと舵を切り始めています。その核となるのが、地域の伝統的保存食の「6次産業化」です。昔から作られていた凍み大根や凍み餅を現代の消費者に響くようパッケージデザインを一新。ネット販売や町外のマルシェなどの外部市場へ積極的に販路を広げています。


5 関係人口の再構築が描く、これからの筆甫の未来
人口減少に伴う地域に係る担い手不足については、「関係人口の再構築」を進めています。直接的な移住という高いハードルの前に、まずは筆甫に愛着を持ち、関わってくれる外部のファンを増やすことに注力し始めています。SNSによる日常発信のほか、へそ大根づくりなどの伝統文化体験プログラム、自然環境を整備する活動への外部参加など、都市住民や若者が気軽に筆甫に関われる「関わりしろ」を意図的に作り出すことで、小さなつながりが、将来的な地域の担い手へと繋がっていってほしいと願っています。
人口減少や高齢化は、避けるべき課題ではなく「すでに目の前にある現実」です。その現実を冷静に見つめながらも、暮らしの不安を安心へと変えていくこと。私たちの小さな村の実験は、同じ課題に直面する全国の農山村地域に対して、「自分たちの地域を自分たちでデザインする」という住民自治の本質を照らし続けられると信じて、これからも進んでいきます。


自治体担当者のコメント
丸森町企画財政課 班長 宍戸 望(ししど のぞみ)氏
丸森町は、273.3k㎡の面積の約70%が山林であり、約11,000人の人口の約45%を高齢者が占めています。昭和29年の町村合併時の旧町村がそのまま8地区として集落が形成され、現在まで続いています。その全ての地区で設立された住民自治組織では、住民の自治活動の拠点であるまちづくりセンターの管理運営を行いながら、町からの交付金を活用し地区ごとに策定した地区別計画に基づいて地域の暮らしに必要な活動や生涯学習活動などに取り組んできました。
また、毎月1回の行政運営推進委員(区長)の会議運営なども担っており、地域住民にとっては身近な相談先であるとともに、地域と町との繋ぎ役として欠かせない存在となっています。
本町では、「協働によるまちづくり」をまちづくりの根幹として捉え、地域自らが地域住民にとって必要な事業を実施し持続的な地域運営が行えるように、町が仕組みづくりを支援し、自治組織はその機動力を生かした活動によって地域づくりを実践しています。中でも筆甫地区振興連絡協議会は、地域課題が他の地区よりも深刻であったこともあり、「地域住民の暮らしを守るため何ができるか」を常に考え、地域の課題解決に取り組んでいるトップランナー的な存在です。
地域の担い手不足はより顕著になってきておりますが、集落での暮らしは続いていきます。人口が減少する中で、「移住はできなくても地域に貢献したい」、「ふるさとの力になりたい」という人々を関係人口として地域活動に参加できるような仕組みの必要性を感じています。これまでも地域外の方々との関わりを大事にしてきた本町の住民自治組織は、私たちの町の強みであるため、今後も共に協力しながら持続可能なまちづくり・地域づくりを進めてまいります。