移動販売、公共ライドシェア広大な物流ネットワークで地域住民の生活を支える

 宅急便事業で培った物流ネットワークを活かし、地域におけるさまざまな課題解決に取り組んできたヤマト運輸株式会社。高齢化、交通空白など山積する地域特有の課題に対し、“ 宅急便以外にもできることはないか”と模索しています。全国的に行われている買い物支援や、一部地域では専用車両を用いた移動販売、公共ライドシェアなども実施。運輸業ならではの関り方で、地域とのつながりが広がっています。

ヤマト運輸株式会社
リテールアカウント事業部
ソリューション創出課長
奈須川 洋平 氏

“買い物”という日常を物流の力で支える

 地域課題解決の参考とするべく、ヤマト運輸では社内イントラネットなどで現場の声を収集しています。「各地の営業所でお客様と向き合う社員の声を集約すると、やはり多いのは『交通空白で地域の足がない』『高齢者は車がないと買い物も難しい』といった声。そうした地域特有の課題や潜在ニーズを吸い上げ、解決に向けた検討を始めています」と話すのは、同社ソリューション創出課長の奈須川洋平さんです。

 買い物支援として全国的に取り組みが広がっているのが「手ぶらでお買い物便」です。高齢者などがスーパーなどで購入した大きな荷物を、ヤマト運輸が自宅までお届けするサービスで、奈須川さんは「今後、地域の高齢化がさらに進むと、ニーズはより増えていく」と語ります。

利用者から喜びの声 他自治体からも関心

 また、買い物支援に交通支援を組み合わせた事例もあります。北海道南西部に浮かぶ奥尻島(奥尻町)は、町内に日用品を買えるスーパーなどがない買い物困難地域となっています。株式会社サッポロドラッグストアー協力のもと、令和4年8月から宅配集配車両を活用した移動販売専用車による食品・日用品などの移動販売の実証実験を開始し、翌年8月から移動販売専用車を新規導入し本格運行を開始しました。

 平日は毎日運行し、希望する個人宅の目の前に車で乗り付けるため、利用者は玄関を出てすぐに買い物ができます。奥尻町の住民が仏花の購入先に困っているという声を受け、移動販売で仏花を扱い始めたところ、週に200本ほどが売れたこともあり、「これでお盆の季節、奥尻島/奥尻町のお墓が華々しく賑やかになります」という感謝の声が届いたといいます。

 移動販売はリピーターも多く、1回あたりの売上も想定より高額で推移しているので、それだけお客様のニーズに応えられているのではないか。また、移動販売のスタッフとの会話も楽しみにされている方もいるようで、子どもや孫が来たように接してくれると、現場の社員から聞いています。

 さらに、令和7年8月からは、客貨混載型の公共ライドシェア「島のりあい」の実証運行を開始。本業である物流と旅客輸送を組み合わせた柔軟な運行体制を構築し、地域住民や観光客の移動を支える新たな交通手段として活用されています。

奥尻町の移動販売専用車両。冷蔵・冷凍機能を完備
公共ライドシェアは電話で予約を受け付け運行

地方創生に経済的価値を

 同社は今後、さまざまな地域課題に対応できるプラットフォームを整え支援を進める考えですが、運輸業であるヤマト運輸が地方創生に取り組む意義について、奈須川さんは「私たちの地域課題解決への取り組みは単なるボランティアではなく、常に経済的価値を創出しています。

 奥尻島での取組への関心が高まり、具体的な協議を進めている自治体もあります。自治体や営業所によって規模やニーズが異なるため、地域ごとに実施できることやパートナーを検討しています」と強調します。そのうえで「ヤマト運輸の経営理念にある『豊かな社会の実現に貢献します』を真摯に実行するため、我々が持っているリソースにプラスして、自治体や地域企業とパートナーとなり、真に“なくてはならないインフラ企業”と地域社会に認知されること、それが私たちの取り組む意義だと考えています」と話します。

 現在、年間約23億個の荷物(小口貨物)を取り扱うヤマト運輸。この物流ネットワークと地域課題を掛け合わせ、豊かな社会の実現に貢献していきたいとしています。
 奈須川さんは「地域ごとに私たちの営業所がありますから、ヤマト運輸にお困りごとを相談してほしい」と全国の自治体に向けて呼びかけます。官民の連携により、地域課題の解決がより加速することが期待されます。

奥尻町の事業所では日用品などの店舗販売も

奥尻町地域政策課 課長
満島 章(みつしま あきら) 氏

この事業を始めたきっかけは何ですか?
 ヤマト運輸(株)様とは移動販売の実施等による信頼関係の積み重ねがありました。
また、奥尻町では、人口減少・高齢化に伴う移動手段の不足と交通空白の課題を抱えており、令和6年度には、行政・交通・観光関係
者、地域事業社が参加し、ワークショップを通じて議論を重ねてきました。その際、ヤマト運輸奥尻営業所長様も参加していただ
いたことから、令和7年度の公共ライドシェアの実証実験につながり、令和8年度は島内全域化と有償での実証実験を運行します。

苦労したこと、工夫したことは何ですか?
 ドライバーを継続して確保することや、安全な管理体制を構築することに大変苦労しました。地域の事業者や住民、そして地域住民からの信頼が厚いヤマト配達員が「一人多役(配達+見守り+送迎等)」で連携し、それぞれが地域課題への当事者意識をもって支えあうことで乗り越えてきました。

この事業によってどのような効果が得られましたか?
 利用者の満足度は高く、今後の利用意向も98.6%と「ないと困る移動手段」として定着しました。有償化・全域化により年間約1,000人規模の需要が見込まれ、持続可能な運営体制と利用需要への柔軟な対応の両立が期待されています。

今後の展望について教えてください
 今後は、持続可能な運行体制の確立に向けたドライバーの継続的な確保や、法定協議・本格運行を見据えた制度設計が課題となりますが、島全体で課題を共有しながら取り組む先進的なモデルとなるよう、引き続き取り組んでまいります。