農山村の地域力と人を育む力

東洋大学国際学部
国際地域学科 教授
沼尾 波子(ぬまお なみこ) 氏

千葉県生まれ。1991年慶応義塾大学卒業、1997年慶応義塾大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学。財団法人東京市政調査会研究員、日本大学経済学部教員を経て、2017年4月より現職。専門は財政学・地方財政論。著書に『交響する都市と農山村~対流型社会が生まれる』(2016年、編著、農山漁村文化協会)、『地方財政を学ぶ[ 新版]』(2023年、共著、有斐閣)など。

人が集まる地域は何が違うのか

 農山村では人口減少と高齢化が進む。集落の担い手が減少し、農地や森林の維持管理、祭りや共同作業の継続が難しくなっている地域も少なくない。

 だが、全国の農山村のなかには、人が訪れ、移住者を呼び込み、新たな活動が生まれている地域がある。交通の便が必ずしも良いわけではなく、都市のように多くの商業施設や娯楽施設があるわけでもない。それにもかかわらず、人々が惹きつけられる地域が存在している。小田切(2024)は、このような「田園回帰」が各地で「ホットスポット」のように存在していることを指摘し、これを「にぎやかな過疎」という言葉で表現している。こうした地域では、新たな挑戦や事業も次々と生まれている。人口減少時代に、地域の外部とつながりながら、地域の生業や暮らしを守り育む地域の力について考えてみたい。

農山村の価値をどう捉えなおすか

 いま、利便性や効率性を重視した都市化志向の価値観に変化が生じている。二地域居住や地方移住への関心の高まり、「田園回帰」と呼ばれる動きはその一例である。人々は所得や利便性だけではなく、自分らしい暮らしや生きがい、人とのつながりを求めるようになっている。背景には、ウェルビーイングという考え方の広がりもあ
る。自然との近さ、人とのつながり、地域のなかで役割を持ちながら暮らすことは、人々の安心感につながる。食やエネルギー自給を通じた暮らしの安心を求める動きもあるだろう。便利さや効率性だけでは測ることのできない暮らしの豊かさが見直されている。

 また、AIやデジタル技術が急速に発展する現代だからこそ、身体性や五感を伴う仕事や暮らしの価値が改めて注目されている。農作業や森林整備、地域行事など、自然や人と直接関わりながら営まれる仕事や暮らしは、人間ならではのものであり、AIが代われるものではない。

 内閣府(2021)「農山漁村に関する世論調査」結果をみると、移住への期待はさまざまである。豊かな自然環境、子育て環境、人とのつながり、地域への愛着など、人によって求めるものは異なるが、そこに利便性だけではない、価値観の多様化をみることができる。

4つの共感ポイント

 では、こうした価値観の変化によって農山村に関心を持った人々は、どのようなきっかけで地域と出会い、関係を深めていくのだろうか。
 人々が魅力を感じ、再訪したいと思う場所にはいくつかの共通する要素がある。コミュニティカフェや地域の図書館などを例に考えてみたい。例えば、高速Wi-Fiや電源が整備され、座り心地のよい椅子がある場所を快適と感じる人もいる。洗練された調度品の整えられた美しい空間に魅力を感じる人もいる。窓から見える自然の風景に魅力を感じる人もいれば、店主や職員との会話を楽しみにする人もいる。
 このように、共感を生む要素には、①機能性、②美しさ、③自然、④つながりなどが考えられる。(図1)

図1 共感をよぶデザイン

これを地域づくりという視点でとらえなおしてみる。
 まず機能性とは、日々の暮らしを支える基盤が整うことによる快適な環境構築を指す。どれほど自然豊かな地域であっても、医療や教育、買い物、交通、通信環境など、一定の生活機能がなければ暮らし続けることは難しい。子育て世代にとって、教育や医療へのアクセスは重要な条件となる。

 第2に五感で感じる美しさである。ここでいう美しさとは、単なる景観の美しさだけではない。歴史ある町並みや建築物、スタイリッシュな空間、手入れされた農地や森林、人々の暮らしが醸し出す雰囲気なども含む。

 第3に自然である。山や川、海、森林など、その土地ならではの自然環境は農山村の大きな魅力である。四季の変化を感じられること、空が広いこと、風や土の匂いを感じながら暮らせることに価値を見出す人も多い。

 第4につながりである。農山村では、人と人との距離が比較的近く、地域のなかで役割を持ちながら暮らすことができる。地域の祭りや共同作業、日々の声かけや助け合いなどを通じて、自分が地域の一員として受け入れられているという実感を持つことができる。

 暮らしのなかで、地域の自然やその美しさ、人々のつながりを大切にすることに価値を見出した人々のなかに農山村とのかかわりが生まれている。

機能重視型から拠点・関係創造型の地域づくりへ 

 美しい景観や豊かな自然に魅力を感じたとしても、それだけで継続的な交流や移住につながり、にぎわいが生まれるわけではない。人々が地域に共感し、継続的に関わるようになるためには、こうした魅力を支える「場」と「関係」が必要となる。その役割を果たすのが、地域に人が集い、交流し、新たな活動を生み出す拠点である。住民が愛着を持ち、移住者や来訪者が往来する地域には、活動の場と関係を育む「拠点」がある。公民館やコミュニティセンターにとどまらず、古民家を改修したカフェや交流施設、学校跡地を活用した学びの場などがその例である。中塚(2019)は拠点の重要性とその特徴を整理しているが、そこでは拠点について、単なるハード(施設)にとどまらず、そこに人が集まり、語り合い、学び合い、新たな活動が生まれるソフト(仕組み)の重要性を論じている。

 美しい景観や豊かな自然に魅力を感じたとしても、それだけで継続的な交流や移住につながり、にぎわいが生まれるわけではない。人々が地域に共感し、継続的に関わるようになるためには、こうした魅力を支える「場」と「関係」が必要となる。

 その役割を果たすのが、地域に人が集い、交流し、新たな活動を生み出す拠点である。住民が愛着を持ち、移住者や来訪者が往来する地域には、活動の場と関係を育む「拠点」がある。公民館やコミュニティセンターにとどまらず、古民家を改修したカフェや交流施設、学校跡地を活用した学びの場などがその例である。

 中塚(2019)は拠点の重要性とその特徴を整理しているが、そこでは拠点について、単なるハード(施設)にとどまらず、そこに人が集まり、語り合い、学び合い、新たな活動が生まれるソフト(仕組み)の重要性を論じている。

拠点の人材とその運営

 全国各地で必要な生活サービスの維持・確保や地域における仕事・収入を確保し、将来にわたって継続するために「小さな拠点」の形成が行われている。内閣府の調査によれば、小さな拠点は全国で2,372箇所(2025年)まで増えており、そのうち1,386の拠点は地域運営組織を有し、地域住民自らによる主体的な地域の将来プランの策定とともに、地域課題の解決に向けた多機能型の取組を持続的に行う組織としての役割が期待されている。

 拠点の運営について、主体的な運営や、多様な担い手の参画に向けた工夫を行う動きも出てきている。藤井他(2012)では滋賀県長浜市の事例から、組織運営のあり方として「①地域の誰もが参加しやすい、②年齢,男女の参加比率が偏らない、③住民への広報手段を制度的に整える、④会議は原則的にすべて公開、⑤地域の課題に自ら積極的に取り組むといった要件が求められ、地域の実情や特性に合った組織形態とし、地域の関係者が十分に話し合って決定すること」が重要であるとしている。各地で多様な人々が主体的かつ柔軟に参加できるコミュニティの形を模索する動きがおこっている。

 人口減少に伴い、外部人材への期待も高まっている。多くの農山村では専門職、技術職の確保は課題であるが、域外から地域おこし協力隊などの新たな担い手が入り、地域の物語を大切にしながら、様々な活動を展開する例も増えてきた。地域のなかに、住民と転入者をつなぐ通訳者がいることは、こうしたつながりを豊かなものにする。

 外部の専門人材とのつながりを持つうえで、ゲートウェイとなる拠点の存在は欠かせない。そのための人材育成や仕組みづくりを支援する行政の施策も増えている。地域人材マネージャー制度や地域おこし協力隊制度、集落支援員など、人への支援も広がる。特定地域づくり事業協同組合による多様な職場での就労機会の確保を後押しする制度を活用する事例も増えている。

地域を「知る」 ~ローカルな情報データとその共有

 拠点があり、人材が集まるだけで地域づくりが進むわけではない。地域の現状や課題、資源について情報を共有しながら意見交換と交流を図り、地域の方向性をともに描く場としての役割が期待される。

 奈良県川上村では、役場職員が村内すべての世帯と事業者を丁寧に調査し、カルテを作成、人々の暮らしや生業について、その持続可能性を検討した。その結果浮かび上がった課題をもとに、そして地域住民の暮らしを支えるために、一般社団法人かわかみらいふを設立し、移動スーパーやガソリンスタンド、看護師・歯科衛生士の移動スーパー同行や、コミュニティカフェの運営など、買い物支援や生活支援を地域で担う仕組みを構築している。人口減少が進むなかで、単に「サービスがなくなる」と受け止めるのではなく、地域に必要な機能を地域で考え、域外事業者などと連携しながら、必要な機能を維持しようとする取り組みが進められてきた。その前提にあったのは、地域の今とこれからを把握するための丁寧な情報収集と分析である。

 地域にとって本当に必要な機能は何かを見極めるための情報収集も必要である。人口減少が進むなかで、あらゆる機能を維持することは難しい。「ないものはない」(図2)を掲げた島根県海士町では、地域に何があるのかを定量的に把握し、地域のこれからを考えるために、ローカルな統計データの把握と共有の仕組みとなるAMASASを整備し、必要なデータを可視化し、共有する仕組みを構築している。(https://amaresas.town.ama.shimane.jp/)。農林業センサスによる集落調査が縮小するなかで、地域の今を知るために情報データを把握し、共有することはともに考えるうえでも大切である。


 集落支援員や地域おこし協力隊が集落に入り、地区の現状と課題を把握し、話し合うための場をつくりながら、地域の今を可視化する取り組みも各地で行われている。地域運営組織が地域課題を整理し、買い物や見守りの拠点の構築・運営や、買い物や通院などの移動を支援するシステムを構築し、暮らしや生業を支える活動を展開する動きも各地で起こっている。自分たちで地域を「点検」「診断」し、必要な機能を確保することや、景観を保全すること、にぎやかに楽しむことなどを計画する。あわせてその土地の住まいや食、暮らしに関わる知恵や伝統行事などに関する情報を共有し、継承する取り組みも進められている。

 このように、ローカルな情報・データを丁寧に収集し、共有することを通じて、地域で緩やかなつながりと取り組みを興す工夫が大切である。

地域を「伝え」「共感」する ~美しい画像・動画

 近年注目されるのがSNSを通じた情報発信である。ある一枚の美しい景観を映した画像や動画がSNS投稿されると、瞬く間に多くの観光客が訪れるという例も各地で聞かれる。地域の今を画像や動画にして共有することは、自分たちの地域を改めて見つめなおし、客観視するきっかけにもつながる。また、自分たちの地域の美しさを再確認することにより、その価値を再認識するきっかけにもなる。

 北海道東川町では、「写真の町」を掲げ、写真文化首都宣言を出している。写真は、地域の自然風景や自分たちの暮らしを客観的に見つめる契機となるほか、撮影等の技術によって、美しい自然風景や人々の暮らしを描き出し、その価値を再認識する機会にもなる。町内各所に人々が撮影した町の景色が美しい写真として大きく展示されている。そのことは撮影者としての住民の誇りにもつながる。その写真を見た人との交流も生まれる。東川町の「写真文化首都宣言」では、「『自然』と『人』、『人』と『文化』、『人』と『人』 それぞれの出会いの中に感動が生まれる『写真の町』」を宣言する、とある。大雪山系の豊かな自然と風土を守りながら、その景色を形にする写真を「文化」と位置づけ、写真撮影や現像、表現を学ぶ機会が町内にあり、誰もが写真を介した表現を通じて、共感する機会に恵まれている。(図3)ウェブサイトやSNSでの発信に共感した人々の来訪が絶えない。

 東川町の事例が示しているのは、単に情報発信が上手だから人が集まるということではない。人々がその地域に共感し、関わりたいと思う背景には、地域そのものが持つ魅力がある。東川町の事例は、地域の魅力を発見し、それを写真という手段を使って表現し、共有することで、住民の誇りと来訪者の共感を生み出している好事例といえる。地域への共感は、単なる来訪や交流にとどまらない。なかには地域に学び、地域で働き、地域の未来を担おうとする人々も現れている。

図3 東川町の風景。人々の手の入った自然や人々の暮らしを写真に収める「写真文化首都」を謡う

学びと創造の場としての農山村

 農山村に学びとイノベーションの場を創出する動きも活発になってきた。徳島県神山町の神山まるごと高専は、農山村の様々な課題に対し、最先端技術を生かした解決策を模索するとともに、次世代を担う若い世代を育成する挑戦である。通信教育を軸としたN高校、S高校などは、スクーリングを全国各地の農山村で実施し、身体と五感をフルに活用した実践的な体験と学びの場を創出している。

 AIの普及により、単純な知識の伝達ではなく、知識や情報を整理し、人との対話を通じて何かを創造することの意義が問われる時代となった。教育の在り方が根本から問われるなかで、自然と向き合い、風土や文化を体感しながら、そこに新たな価値を創造する農山村という場は、創造的人材育成の場として大きな期待も集まる。

 農山村での暮らしと生業の創造プロセスに、外部からの若い世代の学びが加わることは、地域における価値の創造とともに、これからの時代を担う若い世代の学びともいえる。すでに各地で若い世代が地域資源を生かした起業・
生業を興し、自然資源を生かしながら、デザイン性と発信力のある販売戦略を通じて多くの共感を生み、農山村から大きなビジネスを展開する例も生まれてきた。和歌山県みなべ町で若手梅農家が中心となり、移住した若者とともに梅や梅干しの商品開発やウェブを活用した販売で年間数億円を売り上げる梅ボーイズ(株式会社うめひかり)など、農山村で若い世代が地域資源を生かし、共感を呼ぶ事業を展開する動きも出てきた。

図4 大学・大学生と農山村の相互発展モデル
出典:中塚・小田切(2016)p.11より。

 地域住民と外部人材との連携を通じて、双方向的に地域振興が進むサイクルについて、中塚・小田切(2016)のモデルが参考になる。地域で蓄積された資本が外部とのマッチングにより新たな価値の創造につながり、そこから課題解決やビジネス展開につながることで、新たな知見や成果が生まれ、それが資本蓄積につながる。地域内外の人々が関わり、地域資源を生かした活動が展開することで、生まれる創造的な拠点のあり方が描かれている。このように主体的な参加、外部者の参加を通じて、暮らしを守り、事業を創出する多様な機会が生まれるには、主体的で多様性を許容した柔軟な参加の仕組みが求められている。

 人が集まる地域は、機能性だけではなく、美しさや自然、そして人とのつながりを大切にしている地域である。農山村は、単に自然豊かな地域ではない。そこには、人と人との関係を育み、自然と向き合う力を養い、新たな挑戦を生み出す力がある。地域の景色を守り育てることは、人を育てることでもある。

〈参考文献〉
小田切徳美(2024)『にぎやかな過疎をつくる―農村再生の政策構想』農山漁村文化協会。
中塚雅也(2019)『拠点づくりからの農山村再生』筑波書房。
中塚・小田切(2016)「大学地域連携の実態と課題」『農村計画学会誌』第35巻第1号,pp.6-11。
藤井誠一郎・加藤洋平・大空正弘(2012)「「住民自治組織」の実践と今後の展望-滋賀県長浜市の「地域づくり協議会」を事例として-」『自治総研』406号,pp.61-81。