森林と共生し、未来を切り拓く -群馬県上野村の「攻め」の村政と自立への挑戦

上野村役場
振興課 課長
小池 啓満(こいけ ひろみち)氏

1 森と暮らす村 上野村

 私たちの暮らす上野村は、群馬県の最西南端に位置し、総面積の97%を広大な森林が占めています。人口約1,000人という小規模自治体ですが、独自の「自立」の道を歩んでおります。
 多くの過疎地域と同様に、私たちの村でも年間20〜25人程度の自然減は避けられません。しかし、私たちが長年続けてきた積極的な移住定住政策は確実に実を結んでいます。総人口に占める年少人口(0〜14歳)の比率は、群馬県内35市町村中で9番目という高い水準を維持しているのです。近隣の自治体で高齢化率が60〜70%に達する中、上野村は約45%にとどまっており、次世代の生産年齢人口や子育て世代の確保において、確かな成果を上げていると考えています。

豊かな森林と清流に包まれた、自立の村

2 森の恵みを生かした産業とエネルギーの地域内循環

 上野村の経済と暮らしの根幹を支えるのは豊かな森林資源です。かつては建築木材の産地として栄えましたが、価格下落などに直面し、私たちは「未利用資源の徹底活用」へと大きく舵を切りました。現在は、素材生産などの二次産業を守るだけでなく、市場流通が難しい低質材(C・D材以下)を村が直接買い取り、木質ペレットへと加工する取り組みを強化しています。この未利用木材(主にスギ・カラ松)を軸とした「地域内循環型社会」の構築こそ、上野村の戦略性を象徴する試みです。このペレットを村内の温浴施設や農業施設、宿泊施設のボイラー燃料として無駄なく活用しています。

 これにより、これまで灯油など化石燃料の購入のために「村外へ流出していた資金」を地域内へ還流させ、経済が循環する強靭な仕組みを作ることができました。さらに、ペレットを燃料とした小型バイオマス発電施設を1機設置し、主要産業である「きのこセンター」へ電力・熱を供給しております。また、森林面積の6割を占める広葉樹の活用を進めるため、令和5年度から7年度の3か年度で国の補助事業を活用し、広葉樹利用実証事業を実施しました。今後は広葉樹をチップ化し、これを燃料とした小型バイオマス発電施設をさらに5カ所程度増設する計画です。 

 さらに、上野村は令和4年度に環境省の「脱炭素先行地域」に県内で唯一選定されました。私たちは2030年度までに民生部門での電力使用においてカーボンニュートラル実現を掲げ、家庭や公共施設への太陽光発電、蓄電池の設置やEVの購入補助なども積極的に推進しています。

3 移住・定住でつくる地域の未来

 上野村の移住政策が成果を上げる最大の理由は、雇用の場の創出と住居の提供というハード面に留まらず、そこに暮らす「人」への幅広い支援にあります。
 まず大きな特徴が、圧倒的な住宅支援です。約150世帯分の村営住宅を独自に整備しており、家賃は月額5,000円〜1万円程度と極めて安価です。さらにほとんどの村営住宅には太陽光発電、蓄電池が導入され、入居者の電気代が月額2,000円〜3,000 円程度に抑えられています。固定費を徹底的に下げることで実質的な可処分所得を確保し、安心して定住できる環境を作っています。
 また、手厚い教育・福祉支援も子育て世代を呼び込む原動力です。村では平成23年から学校給食の完全無料化を実現しています。さらに、高校・大学等への進学者に対して月5万円を無利子で貸与する独自の奨学金制度を設け、卒業後に村に戻って一定期間働けば返済が全額免除される仕組みも整えています。
 そして、30年以上の歴史を誇る「山村留学」制度は村の移住政策や関係人口拡大のうえで特徴的な取組の一つに挙げられます。都会の子どもたちが1年単位で村に滞在し、地元の小中学校に通うこの試みは延べ500人以上の卒園生を輩出してきました。近年では、親も一緒に村へ移住する「親子留学」や、リモートワークを活用した家族での移住へと進化を遂げています。

光熱費も抑える先進的な太陽光付き村営住宅
ウッドチップが足もとに敷き詰められた公園

4 持続化に向けた現実的な課題

 林業、観光業、キノコ生産など雇用の場は豊富ですが、今後、これらの事業を維持、拡充するうえで、課題は、担い手となっていただける方をいかに増やすかということです。これまで取り組んできた移住定住政策を更に進化、発展させ、課題の解消に繋げていきたいと考えております。

5 地域内循環で目指し持続可能な村

 課題を抱えながらも、私たちが前を向き続けられるのは、開かれた地域コミュニティの力があるからです。

 上野村には、移住者を「外から来た人」として排除せず、一人の大切な住民として温かく迎え入れる開かれた文化が根付いています。「移住者がいなければ村を維持できない」という共通認識が共有されており、全人口の1割以上(約115名)が参加する消防団やお祭り、地域の清掃活動にも新旧の住民が垣根なく加わり、村全体が一つの大家族のようなコミュニティを維持しています。さらに、村直営ファームから届けられるブランド肉「いのぶた」や、県内第2位の生産量を誇る肉厚な「椎茸」、伝統の「麦麹味噌」など、地元の資源を活かした特産品が村のブランドを力強く支えています。

 観光の面でも、従来の鍾乳洞見学に加え、近年では渓流での「キャッチ&リリース」を取り入れた管理釣り場やキャンプ場など、年間約33万人の来村者をターゲットとした体験型のアウトドア需要の取り込みに成功しています。

清流に歓声が響く、上野村での健やかな暮らし

 森林という自然資本を守るだけでなく、これを活用することで森林が電力を生みだし、森林の持てる力により村の主産業が維持されています。この地産エネルギーの連環が、地域内の資金環流を起こすわけで、素材生産を担う林業、エネルギー生産を担う木質ペレット工場という直接の仕事はもちろんのこと、木質バイオマス利用に関係する、宿泊観光業、福祉施設、農業などにおいても事業展開の広がりによる波及効果は大きく、村内全体で雇用と所得を創出する好循環が生まれています。

 このような、地域内循環モデルを回し続けることで、上野村はこれからも小さくとも光り輝く、持続可能な自立した村の未来を切り拓いていきます。