INTERVIEW
まちなか再生プロデューサー
株式会社ワークヴィジョンズ
代表取締役
西村 浩さん
行政
佐賀市
こども未来部 こども家庭課
経済部 商業振興課(担当当時)
松尾 剛慈さん
経済部 中心市街地振興室
土田 英之さん
民間
特定非営利活動法人
まちづくり機構 ユマニテさが
タウンマネージャー
庄野 雄輔さん
遊休不動産×起業支援で、まちを新たなスタートの場に
「寂れていくまちをなんとかしたい」。シャッター街を前に試行錯誤を繰り返していた佐賀市のまちづくりは、その思いに賛同する民間有志とともにリスタートした。遊休不動産の「豊富」さを逆手にとり、それが起業したい人にとっての呼び水へと変わるような仕組みを模索。そして今、閑散としていた商店街は「挑戦したい」人の一歩を後押しする場所へと生まれ変わっている。

課題
佐賀駅から南の中央大通り一帯から佐賀城にかけてのエリアは、県内で最も賑わいを見せた中心商業地であった。しかし郊外に大型ショッピングセンターが開業したことも影響し、中心市街地の商業機能は急速に衰退。空き店舗や駐車場が増え、通行量の減少とともに地域全体の活力が低下してきた。佐賀市もこれまでに数多くの再生策を講じてきたものの、決定的な解決策は見いだせておらず、次の一手をどう打つかが問われていた。
目的
事業に先立ち、佐賀市は社会実験「わいわい‼︎コンテナ」「わいわい‼︎コンテナ2」を西村さんと協働で実践。同実験が周辺の賑わいを生み出したことで、まちなかに人が集まる拠点となる「点」がいかに重要かが認知された。まずは「点」の創出を図り、長期的には多数の「点」から回遊性の高い「線」を生み出すことを目的とする。そのプロセスに遊休不動産の利活用を組み込むことで、空き店舗数を減らし、まちの賑わいへと繋げていく。
地域再生マネージャー事業 実施期間(2015年度〜2016年度)の取組
事業実施体制
商業振興課とまちづくり団体である「ユマニテさが」(*1)が主に連携を取りながら地域の人と相互理解の地盤を構築し、事業を実施。まちなか再生プロデューサーの株式会社ワークヴィジョンズ 西村 浩さんが事業提案や全体統括を担った。2年目は遊休不動産利活用への支援体制構築のため、金融機関との連携を強化した。
*1 特定非営利活動法人 まちづくり機構 ユマニテさが : 佐賀市中心市街地の活性化を目的とする組織。元々はタウンマネージメント機関「TMO 佐賀」として、商工会議所内に 2005 年度に創設。2009 年度に特定非営利活動法人として改変。

事業実施内容
活用への合意形成と制度づくり
What ― 何をしたのか?
初年度は、遊休不動産の利活用とまちなかでの起業のハードルを下げる足掛かりをつくるため、出店ニーズの顕在化を図った。2年度目は初年度に顕在化した課題(利活用にあたって一定の投資が必要、金融機関の評価を得られるような事業計画が必須)を解決するため、金融機関との連携を強化。事業面、資金面における支援体制の構築を図った。
How ―どのようにしたのか?
ー起業をシミュレーションできる「お試し出店」を空き店舗で実施(2015 年度)
ユマニテさがが不動産所有者と交渉して空き店舗の賃貸借契約を結び(賃料は佐賀市負担)、期間限定(30 日間)でのお試し出店企画、オープンシャッタープロジェクト 【ひなのみせ】を実施(全 3 回)。出店料は1区画 2 万 5,000 〜 3 万円(1カ月分、光熱費込)と安価に抑えて参加しやすい条件を整え、出店ニーズの掘り起こしを図った。空き店舗のシャッターを開け、まちなかの風景が一変する様子を目の当たりにすることで、遊休不動産の利活用がいかにまちの賑わいを生み出すかを知ってもらうきっかけとなった。
ー事業計画づくりや事業融資サポート体制の構築(2016年度)
初年度を経て、遊休不動産には老朽化による設備投資が必要な物件がほとんどであることが判明したことで、2 年目からは金融機関との連携強化を目指した。
「不動産所有者や起業希望者の悩み、困りごとは実にさまざまです。確かな事業計画があり、資金補助があれば十分な方もいる一方で、専門家のアドバイスが起業希望者本人の意欲や自信に繋がる印象を受けたケースもありました。相手に寄り添い、案件ごとに必要な支援を判断することが大切だと感じました」(松尾さん)
佐賀市は金融機関との会議を通じて、融資拡大には事業計画づくりの支援が重要と判断。そこで、遊休不動産活用事業者が第一線で活躍する経営者などから計画の助言を受けられる仕組みや、最大 50 万円の利子助成制度を整備。市が認定した事業計画をもとに金融機関が安心して融資できる体制を構築した。
ー遊休不動産利活用におけるモデル事業の創出(2016年度〜)
市内で遊休不動産の利活用を円滑に行うための事業スキーム構築のため、10 年間空き店舗だった呉服元町の「旧西沢ビル」(約400 坪、4階建ての空きビル)を利用できないかと考えた西村さんは、自ら交渉しビルオーナーの賛同を得る。オーナーとワークヴィジョンズ、株式会社まちなか不動産(*2 )が出資して SPC(特別目的会社)「オン・ザ・ルーフ株式会社」を設立。「オン・ザ・ルーフビルディング リノベーション計画」として、国土交通省による民間都市再生整備事業の認定を受けて、一般財団法人民間都市開発推進機構によるまち再生出資、地元金融機関の融資、佐賀市などの補助金を元手にリノベーションした(2018 年度に「ON THE ROOF」としてオープン)。
*2 株式会社まちなか不動産:佐賀市中心部の活性化や不動産の価値向上を目指し、まちなか再生に取り組む不動産会社。2016年度設立。︎2024年度より、西村さんが代表取締役。
ーエリアの価値向上を見据えてクリーク(水路)の利用法を模索(2016年度)
「まちづくりで大事なのは、公共空間と民間の不動産をセットで考えることです。佐賀市内に網の目のように張り巡らされたクリーク(十間堀川・裏十間川)を人が集う場所にできれば、その沿川の不動産価値が上がり出店希望者が現れるかもしれない。価値が上がれば物件所有者もリノベーションや建て替えを考えることが可能になって、エリア全体の価値が上がるんです」(西村さん)
クリークの存在を市内外に認知してもらいながら暮らしを提案することを目的として、民間の活動団体「さがクリークネット」が佐賀市と連携し、川下りフィールドワークや、クリークマルシェ(全2回)などのイベントを実施した。

本事業は、佐賀駅から徒歩約10 分、佐賀城にも近い呉服元町を中心としたエリアの再生に取り組んだ。
情報発信の強化
What ― 何をしたのか?
さまざまな取り組みにより変わりゆくまちなかの様子をリアルタイムで市内外に伝えるべく、これまで以上の情報発信が必要と考えられた。市民ライターがまちなかを取材し、記事を作成するローカルメディア「街なかかわらばん佐賀」(編集・発行「ユマニテさが」、発行部数1万部、ウェブ版も定期更新)を情報発信のツールとして確立させるとともに、新たな情報発信の方法を検討した。
How ―どのようにしたのか?
ー「街なかかわらばん佐賀」の発行回数拡大とイベント「SAGA Round Table」の開催
「街なかかわらばん佐賀」の発行回数を4回から6回へ拡大。さらに西村さんらの発案により将来的なI・U ターン者の掘り起こし、起業に繋がることを見据え、佐賀在住者と佐賀に縁のある首都圏在住者が「住む」「働く」をテーマに語り合うイベント「SagaRound Table」を佐賀市主催で開催した(全2回)。東京と佐賀の各会場をインターネットで繋ぎ、佐賀の最新情報を共有。イベント内で「街なかかわらばん佐賀」の定期購読者やまちづくり活動の寄付金を募った。
「とにかく情報発信はすごく大事。どんなに面白い取り組みも、周囲に伝わらなければ自己満足で終わってしまうんです」(西村さん)
主な成果
2店舗が出店。遊休不動産の価値を捉え直す契機に
「オープンシャッタープロジェクト 【ひなのみせ】」には、市外や県外からも出店希望者が参加した。1 回目は11 店舗(21テナント)、2回目は7店舗(7 テナント)、3 回目は 4 店舗(5テナント)が出店し、結果として参加者の本格出店(事業実施期間中 2 店舗)へと結びついた。
「出店を考える方に、まちなかの遊休不動産も使えるんだと思ってもらうことも、イベントの大事な役割でした」(庄野さん)。
不動産の利活用例を可視化し、イベント当日には多くの買い物客が訪れたことで、これまで見えてこなかった遊休不動産のポテンシャルを、不動産所有者をはじめとする地域の人々が体感できたこともこのイベントの大きな功績となった。


起業しやすいまちの基盤を構築
遊休不動産の利活用に関する課題が顕在化したことを契機に、迅速な起業支援体制が整備された(利子助成制度利用実績 25 件:2017 年度~ 2025 年 11 月)。事業中の取り組みによって、まちなかの歩行者数も増加し(*3)、起業しやすい環境も生まれた。
* 3 2013 年度 1,947 人/日→ 2016 年度 2,002 人/日。コロナ禍の 2020 年度に 1,299 人/日 まで落ち込んだが、2024 年度には 1,954 人/日 まで回復している。
有料定期購読者の掘り起こし
「Saga Round Table」第1回の東京会場には 54 人と、定員 50 人を超える人数が集まり、「街なかかわらばん佐賀」の定期購読者の獲得にも繋がった。
まちなか再生プロデューサーコメント

代表取締役 西村 浩さん
PROFILE
佐賀県出身。1999 年、株式会社ワークヴィジョンズ設立。株式会社オンザルーフ代表取締役、取締役、呉服元町ストリートマーケット株式会社取締役、株式会社まちなか不動産代表取締役。
過去の成功事例に答えはない積極的に社会実験を
佐賀市役所の方から相談を受けたことがきっかけで、2010 年度からまちづくりに関わっています。
事業開始当時は「わいわい !! コンテナ2」など「点」となる拠点はありましたが、依然としてまちなかは駐車場だらけ。駐車場は目的地ではなくバックヤードですから人が来る動機にはなり得ません。補助金で単発的なイベントをやっても、まちに魅力がなければ人が来るのはその場限り。事業期間中は「働きたい」「住みたい」人を呼び、まちに定着してもらうための試行錯誤の連続でした。
人口減少や IT 化で社会全体が前例のない状態へ変化する今、過去の成功事例を参考にしても何も変わりません。地域の特性をどう生かせば豊かに暮らせるかを考えることが大事です。社会実験は行政が唯一失敗を許されている事業。だからどんどんトライしてほしいですね。その中で成功したものが残っていき、そのプロセスが地域の今後のあり方を教えてくれるはずです。
地域再生マネージャー事業 終了後の取組(2017年度以降)
事業実施体制
事業実施期間中の体制は解散。2020 年度からはユマニテさがを「ワンストップ窓口」とし、まちなかでの出店や不動産活用の事前相談受付をすべて集約。同団体は、相談内容を精査して支援内容を判断し、行政をはじめとする各支援先へ繋ぐ。

事業実施内容
不動産の相談窓口の一元化
What ― 何をしたのか?
事業実施期間中の取り組みを経て、出店希望者と不動産物件の効率的なマッチング、起業支援の必要性が明確になった。そのため佐賀市は、出店ニーズ・物件情報の集約を図るため、相談窓口の一元化を図り、マッチングと起業支援の効率化を図った。
How ―どのようにしたのか?
ー出店ニーズ・物件情報を集約する「ワンストップ窓口」創設
2020 年度より、空き店舗情報や出店に関する支援制度の案内など、まちなかの相談窓口をユマニテさがに一元化した。同団体は、出店希望者と不動産所有者の双方から寄せられる相談を丁寧に整理し、課題に応じて支援制度の紹介や市・金融機関・専門家との連携を図りながら、適切な助言を行っている。
「相談内容や事情は一つひとつ異なるため、今も手探りで進めているのが正直なところです。相談者や所有者のペースに寄り添いながら、日々アンテナを張って対応しています」(庄野さん)
遊休不動産の利活用促進
What ― 何をしたのか?
起業希望者や不動産所有者から寄せられる相談の中でよく聞かれたのが「遊休不動産をリノベーションするための投資額がわかりにくい」という声だった。そうした課題を解決し、まちなかの商店街が新しいスタート(起業)の場として選ばれるような仕組みづくりを模索。
加えて、それぞれの事業の継続性を高める地盤をつくるべく、引き続き起業希望者や不動産所有者のための支援体制を構築した。
How ―どのようにしたのか?
ー不動産所有者と起業希望者のマッチング促進
2018 年度、遊休不動産の利活用にあたって、不動産所有者が抱える悩みを解決する場として「空き店舗・空き家活用セミナー」を、ユマニテさが主催で開催した。具体的な事例や支援制度の紹介、「どのくらいの投資が必要か」「相続するにはどうしたらいいか」などの所有者の悩みを相談できる個別相談会も実施した。
行政による広報と、実際に不動産所有者と顔馴染みである庄野さんの声かけでセミナーの周知を行ったところ、40 人ほどが集まり、遊休不動産の活用を考えている所有者が予想以上に多いことも判明した。
不動産所有者たちの声を聞き、中心市街地の遊休不動産を起業希望者に実際に見てもらう必要性を感じた庄野さんは、翌年度より「さが街なか空き店舗見学会」を実施した。見学会では、実際にまちなかを歩いて物件を巡りながら、それぞれの店舗の間取りや築年数、立地条件などの説明を聞くことができるようにした。
「空き家見学会の開催にあたっては、まず長野県長野市善光寺門前地区で多くの空き家や空き店舗を再生されている倉石 智典さん(株式会社 MYROOM 代表取締役)に話を聞きに行きました。そこで教えていただいたノウハウを佐賀市の状況に合わせて、少しずつアレンジしていきました」(庄野さん)

ー街なか遊休不動産マッチング推進事業補助金の設立
「さが街なか空き店舗見学会」による効果もあり、まちなかへの出店が増加。それに伴い遊休不動産の改修を考える不動産所有者も増えてきたことから、佐賀市では制度拡充を試みた。2023 年度に不動産所有者向けの「街なか遊休不動産マッチング推進事業補助金」を制定。遊休不動産の所有者がテナント希望者に貸し出すための改修費用を上限 200 万円で補助する制度(希望者がすでに決まっていることが必須条件)である。2025 年 9月現在、その制度を含めた起業の伴走支援など11の起業支援事業を行っている。
主な成果
4年間で37店が開業。人が人を呼ぶ好循環が生まれている
現在、まちなかでは遊休不動産活用促進事業を活用し、長期間空き店舗となっていた物件がリノベーションされ、利活用される事例が増えている。
「ワンストップ窓口」であるユマニテさがへの問い合わせを経て、実際に物件の利活用に至った事例は、2020年度から 2024 年度までの間に合計 44 件(内、呉服元町エリア 13 件)に。
「街なか遊休不動産マッチング推進事業補助金」の利用実績は 2023 年度は5件、2024 年度は3件、2025 年度(4 〜7月)は 4 件であった。ユマニテさがが企画・運営する「さが街なか空き店舗見学会」は、現在も継続的に年6回実施され、不動産所有者と起業希望者のマッチングに欠かせない取り組みとなっている。
ユマニテさがが起業希望者に寄り添って事業面での積極的な支援を行い、佐賀市が起業や店舗リノベーションを後押しする、行政と民間の両輪による継続的なまちづくりの仕組みが構築されている。
また、「わいわい !! コンテナ2」周辺の旧呉服元町名店街の変化は著しく、2015 〜 2024 年度の 10 年間で 15 件以上が開業(空き店舗率:2015 年6月 38.46% → 2024 年 9 月26.23%)。民間プレイヤーが生まれ、自主的なまちづくりがさかんになっている。




(中)スマホ修理やパソコン教室、eスポーツ教室を営む「DigitalStudy」(呉服元町、2024年4月開業)。
(右)美容室「151A」(白山、2023年6月開業)。
いずれも、ユマニテさがが物件を紹介した店舗。店舗の改装には市の補助金を利用した。
2019 年度からは、「呉服元町ストリートマーケット」が定期的に開催され、賑わいを呼ぶなど、小さな「点」が繋がり、まちを彩る大きな「線」を描きつつある。遊休不動産は、挑戦したい人が新たなスタートを切る場所となり、移住希望者も増加。人が人を呼ぶことでまち全体が活気を取り戻し、それが「働きたい」「住みたい」という動機を生み出すエリアブランディングに繋がる好循環が生まれている。

自治体コメント

佐賀市
こども未来部 こども家庭課
経済部 商業振興課(担当当時)
松尾 剛慈さん(左)
経済部 中心市街地振興室
土田 英之さん(右)
ピンチをチャンスに変え、町の魅力化を推進
本事業を通じて廃石膏問題への危機感を共有できたことが、地域の団結に繋がりました。
河野さんや平尾さんが多くの人と対話し、人と人を繋ぎ、「言いたいことを言い合える」雰囲気をつくってくれたことが原動力になったと思います。私たち町職員も行政/民間の垣根を越えて行動し、同じ熱量で動く姿を示すよう努めました。
結果としてピンチをチャンスに変え、地域一丸となって新たな町の魅力を築くことができたと自負しています。
この事業は「まちなか再生事業」を活用しています。詳細はこちら。